古くから、大阪は日本の商業・経済の中心として知られ、当時の物資の集散地であり、充実した物流および配送ネットワークを有していた。このため、製品は迅速かつ効率的に全国各地へ配送され、さらには海外市場へも輸出されていた。
日本の工業化の重要な拠点である大阪は、早くから製造業の基盤を築き上げ、鋼鉄、繊維、機械、石油化学が阪神工業地帯を形成している。経済産業省のデータによると、関西地域の製造業は日本全体の製造業生産額の20%以上を占めており、食品製造から電子機器製造に至るまで、パナソニックやシャープといった名だたる企業が大阪を拠点としている。
また、電子業界以外でも、大阪の消費財製造業は大きな影響力を持っている。大阪は「天下の台所」とも称され、1990年代に世界的に流行した日本の食品ブランドも多数が大阪から発信された。
例えば、最もよく知られるインスタントラーメンの発明者である「日清食品」は、1948年に台湾出身の日本人創業家・安藤百福氏によって大阪府泉大津市で創立され、その後、カップ麺としてアメリカ市場に進出し、20世紀のアジアの即席食品の象徴となった。また、道頓堀にある江崎グリコの「走る人」広告看板は、長年の老舗キャンディメーカーの象徴であるとともに、大阪を象徴する風景として世界中に広まり、2003年には大阪市により重要な景観物として指定された。
どうすれば「Made in Japan」は再び国際舞台に戻るのか?
「Made in Japan」はかつて品質保証の代名詞として広く認知されていたが、30年の低迷を経て、故・安倍元首相が掲げた「経済政策三本の矢」によって、積極的な金融緩和を行い、インフレを通じて日本の製造業の輸出競争力を回復させた。その結果、品質が高く、価格も競争力のある日本製品が再び国際市場に登場した。しかし、「日本製」の復活には、技術だけでなく、最大の課題として「人材」が挙げられる。
製造業が集積する大阪では、少子高齢化とそれに伴う労働力不足が特に深刻だ。総務省の公式データによると、2023年の日本の総人口は約1億2500万人で、そのうち29.1%が65歳以上の高齢者だ。経済協力開発機構(OECD)の推計によると、2030年には日本の労働力不足が最大で600万人に達する可能性があるという。
AIを活用して製造業の労働力不足問題を解決
2020年に大阪で設立されたスタートアップ企業Hutzperは、製造業の生産ラインにおける人手不足の解決を目指す。AI技術を駆使し、繰り返し作業が求められる業務の人手を補うことを核心に据えたビジネスモデルを展開している。
AI技術の中でも、自動画像認識は比較的成熟した分野の一つであり、自動運転支援技術がその代表的な例である。Hutzperは独自のマシーンラーニングのアルゴリズムを開発し、生産ライン上での欠陥検出を自動化している。この技術は、製造業において出荷前に最も労力を要し、かつ省略できない重要な工程だ。
Hutzperの事業戦略室長であり、同社の初期メンバーである染谷康貴(Koki Someya)氏は、「日本の工場の82%以上が人手不足の問題を抱えており、特に生産ラインでの製品検査を担当する人員が深刻に不足しています」と語っている。
ソフトウェア企業であるHutzperだが、大阪にある本社オフィスには製造業の風格が色濃く感じられる。オフィスに足を踏み入れると、すぐに目に入るのが工場風のHutzperのジャケットが掛けられたハンガー。「お客様が来社する際や、ビデオ会議の時には、私たちはこのジャケットを着ることが多いんです」と染谷氏は笑いながら説明する。「多くの顧客が伝統的な工場の企業ですので、こうした装いが信頼感を与えるんです。」
工場風のジャケットを「制服」として顧客訪問に臨むHutzper。ソフトウェア企業でありながら、工場文化に根ざしたコミュニケーションを重視し、保守的な伝統的製造業へのアプローチを円滑にしている。
「工場文化」を基盤としたブランド定位
顧客層の特性から、Hutzperは一般的な自由奔放なAIスタートアップとは一線を画し、独特のスタイルを持つ。ソフトウェア企業でありながら、ブランドコミュニケーションの随所に「古き良き工場文化」の雰囲気が漂う。
Hutzperの公式ウェブサイトのトップページを開くと、まず目に飛び込むのは日本の伝統的な製造工場の写真。作業着を着た工場スタッフが大型機械の間を忙しそうに動き回る様子が描かれ、「第4次産業革命の頂点を目指して」とのメッセージが添えられている。また、製品・サービスの紹介でも、「工場現場で実際に使えるツール」という特徴を一貫して強調している。
製造業のデジタルトランスフォーメーションにおける最大の障害は、技術ではなく文化的な抵抗にある。デジタル化は人間を代替するためではなく、人間に力を与えるものだが、その価値観を伝える前に、技術者たちの心をどう開くかが課題だ。
染谷氏の名刺には、名前や肩書きといった会社情報のほか、出身地や個人の趣味も記載されている。名刺交換時に相手が同郷であれば親近感が生まれ、趣味の話題をきっかけに会話が広がるという。
AIが支える「現場主義」:日本製造業をさらに強化!
Hutzperの共同創業者である大西洋(Hiro Onishi)氏と黒瀬康太(Kota Kurose)氏は、それぞれ日本の大手テクノロジー企業、日東電工とIBMでキャリアを積んだ。彼らは、日本の大企業はAI導入に必要な資金やリソースを持つ一方で、製造業全体の90%以上を占める中小企業は十分な資金もAI人材も確保できず、デジタルトランスフォーメーションが進まない現実に着目した。
「中小企業にとって、デジタル化で最も懸念されるのは資金のプレッシャーと、投資回収期間が長引くリスクです。」大西氏と黒瀬氏は、この課題に応えるため、SaaS型のサブスクリプションサービスを提供。資金や人材、技術が限られた中小企業をターゲットに、継続的な技術改善を低コストで実現するソリューションを提案している。
Hutzperの主力製品の一つは、外観検査を自動化するAIだ。120万枚以上の製造業の画像データを活用して訓練された。「工場の作業プロセスを熟知した50人以上のAI専門家が開発したアルゴリズムは、非常に高い精度を誇り、現場のニーズに応える設計となっています。」
もう一つの主力製品「振動大臣」は、ハードウェア製品だ。医師の聴診器に似た装置で機械の振動を感知し、故障を予測。リアルタイムでメンテナンスを行うことで、ラインの稼働を維持することが可能になる。
コンサルティング型のSaaSサービスは、「俯瞰的な提案」というコンセプトのもと、予知保全、スケジュール最適化、品質検査といった中小製造業の生産ラインにおける重要なプロセスを統合・最適化する。この仕組みにより、運営効率を40%向上させ、コストを50%削減することが可能だ。
海外展開、台湾との協業が間近に
Hutzperの顧客層は電子製造業、食品製造業、畜産業、自動車産業など多岐にわたり、実際の現場画像がデータベースに蓄積されることで、アルゴリズムの精度もさらに向上している。SaaS型のサブスクリプションサービスを通じて、Hutzperの製品改善と中小製造工場のスマート化が密接に結びついており、「現場主義」の長期的な目標は、日本の製造業をさらに強化することだ。
精度の向上に伴い、Hutzperは日本国内で既に120社以上の顧客を抱えている。当初ターゲットとしていた中小製造工場に加え、ソフトバンク(Softbank)、KDDI、東芝(TOSHIBA)といった名だたる大手企業も顧客に加わった。
現在、Hutzperの投資家には日本の三大銀行のうち三菱UFJ銀行と三井住友銀行のベンチャーキャピタル部門が名を連ねている。資金調達の目的は海外での事業規模の拡大であり、来年にはタイ市場への進出を予定している。さらに、台湾も海外展開の計画に含まれている。
「今年だけで台湾の展示会に3回出展しました。台湾の製造業は非常に強力で、加えて現在、TSMC(台積電)が九州に工場を設立しようとしています。それに伴い、多くの台湾企業がTSMCに続いて九州に進出するでしょう。日本と台湾の産業がこれまで以上に交流を深められることを期待しています」と染谷氏は語った。